あなたが「好きなこと」「嫌いなこと」はなに?
子どもたちはこの問いかけをどう理解するのでしょうか?
その定義に対し自分の心の経験と重ね合わせ、そしてそこから生まれた答えをしっくりくる、自分の言葉で表現すること。受け答えのプロセスをよくよく考えてみると、それは時に大人でもなかなか難しいことかもしれません。
心の中に内在する感情や思考を言語化するという能力は、聞いてもらえる経験によって、発達が促されるのだなあ。と、たいわ室に来てくれるこどもたちと話をしていると、実感する瞬間が幾度もあります。
私自身がまだ小さな子どもだったころのこと。はじめてピアノを習った先生は、とても厳しい人で、いつも練習が足りなくて叱られる。間違えたら怒られる。といつもびくびくしていたことを、未だ鮮明に覚えています。
否定されたり答えを迫られたりしたとき、幼い言葉では対等に言い返すこともできず、かといってその全てを聞き受け入れようとすれば、まだ幼かった私の心はつぶされてしまったかもしれません。当時の私は防衛の手段として心の耳を閉じ、先生の言葉を素通りさせることで自分を守るようになりました。大人の言葉を聞き流す癖のついてしまった私は、言葉に聞く価値を見出せず、ただ表面的に「いい子」でいることを無意識のうちに選択するようになりつつありました。
そんな私の2人目のピアノの先生は、いつもニコニコしていて、表面的ではなく、瞳をみて私の話を聴いてくれる、何よりもその場にいることへの安心感を与えてくれる人でした。思い出すのはそのあたたかな笑顔と、いつもレッスンの終わりに私のリクエストした曲を弾いてくれたこと。物静かで言葉は少ない先生でしたが、いつも私との時間を本当に大切にしてくれていると、幼いながらに肌で感じ、先生のレッスンが楽しみでしかたなかった私は、残念ながらピアノはさっぱり上達しませんでしたが、少しづつ言葉の受け渡しに心を込めることができるようになっていったのだと、振り返ってみて実感するのです。
たいわ室に来てくれる子どもたちは誰一人として同じではありません。
お話が苦手な子、何を話していいかわからない子、はてまたお話が止まらない子もいます。
そのすべての個性を受け止めたい。
そのかけがえのない30分を、かつて私がしてもらったように、
大切に包みたい。そんな思いを持って、たいわ室にきてくれる子どもたちとの出会いを楽しみにしています。